外国語とはどんな言葉か?
筆者も静岡県警で中国語通訳の仕事をいただいたことがあります。台湾には二年半ほど住んでおりましたが、台湾人と結婚して十年ほどの結婚生活を送 り、台湾の親族や知人ともすべて中国語か台湾語でしたし、すでに廃校となった静岡市の富士国際日本語学院では主に中国からの就学生に、日本語を教えるだけ でなく、生活指導や様々な場面での通訳を担当してきました。
自分自身が苦労して外国語を習得した経験がありますので、正規の日本語教員として外国人に日本語を教える上でも、様々な経験を生かすことができましたが、それにも増して役に立つのは、言語学の知識です。
たとえば、言語学には音声学という、発音に関わる分野がありますが、これがわかっていないと発音指導はできません。
日本人として、当たり前に日本語を習得して暮らしていますと、最も基本である母音「あいうえお」の発音が、厳密にどんなものであるのか、それを客観的に説明するということができませんが、音声学ではそれを科学的に検証します。
日本語には「あいうえお」の5つの母音があります。というのもさも、当たり前のことのように思われますが、古くからの東北弁や、鹿児島以南の諸方言には5つもありません。
たとえば、「涙(なだ)そうそう」という流行歌に「うちなーぐちバージョン」というのがあります。よく聞きますと、「あいうえの」のうち、「え」と 「お」が全く出てきません。 その「うちなーぐちバージョン」の歌詞カードには「ど」など出てくるのですが、ちゃんと聞くと「ど」ではなくて、「どぅ」と発音しています。ちなみに、 歌っている夏川りみさんは、石垣島の人です。
「あいうえお」より母音の少ない方言もあるのが日本語ですが、「あいうえお」とは別の母音を持たないのも日本語です。
ところがこれが外国語となりますと、もっとたくさんの母音があるということがよくあります。例えば、私たちが中学1年生から習ってきた英語ですね。 「アップル」の「ア」と「ファザー」の「ァ」は別の「あ」ですし、「アンクル(おじ)」の「ア」もまた別の「あ」ですから、これだけでも少なくとも3つの 異なる「あ」があることになります。
さらに「かさたなはまやらわ」といった音の頭に発音される子音となると、もっと複雑な違いがあって、日本の中学や高校の先生が子供たちに英語の発音 をしっかり覚えさせることは不可能に近いという話になるかもしれません。事実、英語がぺらぺらの日本人でも、発音を完璧にできるという人はかなり少ないは ずです。
私たち人間は、世界中に住んでいて、それぞれにいろんな言葉を使って暮らしています。同じ人間ですから、ついている唇や舌、歯の形や数は同じはずな んですが、人間の口というのは、母音ひとつとっても非常にたくさんの異なる音を発音することができるようになっています。それを言語ごとにカテゴライズ (区分け)して、このへんの母音からこのへんの母音まではひとつの母音として括る、このへんからこのへんまではこの母音ということで括る・・・というよう に、音を相対的に区分けして互いに異なるものと認識しています。
そのようなわけで、日本語では、「アップル」の「ア」、「ファザー」の「ァ」、「アンクル(おじ)」の「ア」は、どれも同じ「あ」ですが、英語では違うということになってくるんですね。
子音では例えば、「イングリッシュ」という時、私たち日本人の発音は、英語の人たちには「ENGRISH」と聞こえるそうです。本当は 「ENGLISH」と、「L」なんですが、それが「R」に聞こえるというわけです。それが面白いことに、「ENGRISH」という、新しい単語も英語には ありまして、「日本人がよく使う間違いだらけの英語」という意味になっています。日本人には「L」も「R」も同じ「らりるれろ」の子音ですから区別するの は難しいことですね。
さらにお隣の韓国語や中国語には、濁音というものが基本的にありません。
「がぎぐげご」などの濁音というのは、私たち日本人の耳には「濁った音」と認識されるものですが、それを音声学的に説明しますと、「その子音を発音するために声を必要とする音」ということになります。
試しに、ひそひそ話のように、声を出さずに「知事(ちじ)」と言ってみてください。するとどうしたわけか、どうがんばっても「ちち」としか発音できません。これは「ぢ」や「じ」で表記される子音には、声が必要となるためです。
日本語の清音・濁音のような違いは、中国語や韓国語にもあるんですが、中国語や韓国語の場合は、声を必要とするかどうかという違いではなくて、発音 する時に息を出すか出さないかという違いになります。息は出しても出さなくても、日本語からすれば「清音」なんですね。ですから、中国語や韓国語には、基 本的に濁音がないということになるわけです。
韓国語は、文法的には日本語に近い言語ですが、音韻は中国語に近い言語だということになります。
今回は発音のことにだけ少し触れましたが、単語の意味の違いのことなど、外国語と日本語の違いについては、話し出すときりがないくらい、たくさんの違いがありますね。
違いというのは、知れば知るほど面白いものです。私はそれが面白すぎて、国際結婚までしてしまいました。
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